1996年11月20日 第4号
発行=草子舎

「落ち葉を踏みしめて」
雑木林を歩こう

野末たく二

 秋から冬にかけての雑木林は拾いものが多くて、楽しい。ドングリ、落葉、そしてキノコ。ドングリの名前はたいがいは知っているのに、キノコの名前となると意外に分からない。毒キノコがあるから、危険と思いこんでしまっているのかもしれない。でも、気にし始めるとキノコっておもしろい。
 まず色彩の豊かさ。キノコは茶色と思い込んでいたらとんでもない。黄、赤、黒と極彩色で、どれも負けず劣らず色鮮やかだ。形や大きさもいろいろ。この時見つけたものには高さ30センチ以上もあるキノコがあり、それは笠の所が何かに食べられたように欠けていた。後で調べてみたら、元からそういう形らしい。
 それからキノコが円になって生える「妖精の輪」にも出会えた。それは、キノコが一列に丸くなって生えているもので、その並び方は見事な円だ。たしかに「妖精」がどこかにいても不思議ではない。
 結局、キノコはいっぱい見たけれど、一つも食べなかった。目の前にご馳走があるのに…。道路を安全に渡るための知恵は持っていても、自然のものが安全かどうか知る術はない、いや忘れてしまった。たしかに人間の生きる力は退化している。でも、小半日視線を低くして森を歩いたお陰で肩凝りが治った。
 秋は急ぎ足だ。あんなにうるさいと思っていたモズの高鳴きが夕暮れの色になじんできたころ、雑木林では紅葉が始まる。雑木林の紅葉は、派手さがない。雑木というくらいで、色々な木が混じり、葉の枯れ具合は、それぞれ違う。
 クヌギ、コナラの茶色。赤はせいぜいツタやガマズミ、ヌルデくらいで、しいて言えば黄色から赤へと変化するサクラは、七変化のおもしろさはあるかな。いずれにしても、モミジのように一時心を奪われてしまうようなあでやかさはない。しかし、冬になると葉を落とす落葉樹が多い雑木林は、かさかさと落葉を踏みながら秋を確かめることができる。落葉の柔らかな感触は、自然と心を和ませてくれる。
 雑木林を歩くのに持ち物はいらない。少し気取ってみるために、手を入れるポケットがあれば十分だ。葉が落ちて鳥の姿も確かめられやすいこれからは、雑木林の散策が楽しい季節だ。ドングリもキノコもいつの間にか消えて、葉がすっかり落ちた木にはカラス瓜がぷら下がっている。雑木林が眠りにつくまで、なるべく足を運んでみようと思う。
 


【ジュニアクラブ】小・中学生のためのネイチャー教室
歴史の不思議を観察してみよう

三日月神社 絵馬のなぞ
 吉瀬の集落に、「三日月(みかづき)神社」という神社があります。坂の上り口にあるこの神社は、通りに面していながら、いつもちらと見かける程度で、じっくり拝観(はいかん)したことはありませんでした。ある時、散歩のついでによってみると、思わぬ発見。ちょうど拝殿(はいでん)わきの壁に絵馬(えま)がたくさんかけられていたのです。
  絵馬は知っていますよね。神社にお参りした時に板に「合格祈願(ごうかくきがん)」とか願いごとを書いてつるすもので、なぜか形は家型(いえがた)です。
 ところが、三日月神社の絵馬は、たて30センチ、よこ50センチはどの長方形で、一枚一枚が手書きです。その中には絵馬を神社に納(おさ)めた人の名前や年月日が読み取れるものもあります。時代を見ると、絵馬は大正時代のものが多いようですが、いったいどうい人がどういう願いをこめて奉納(ほうのう)したのでしょうか。

三日月神社の絵馬は、なぜか青い着物の女性が多い。

歴史を観察?
  観察というと自然だけと思いがちですが、家の近くにある神社や寺院、遺跡(いせき)などの「観察」でも思わぬ発見があるものです。いつも学校の行き帰りに見ていた田んぼの中の小さな山が古墳(こふん)だったとか。思わぬ発見をしたら、その不思議を解明してみたくなりますよね(ウン)。歴史の不思議はあなたや私が今どうしてここにいるのか、その手掛かりにもなります。また、今とは違った集落の暮らしぶりを知ることができます。
  では、そのなぞはどうやって解明したら良いのでしょうか。

史料をじっくり 観察しよう
  イギリスの小説に出てくるシャーロック・ホームズという名探偵(めいたんてい)は、まず犯人(はんにん)が現場に残していったものをたんねんに調べることから推理を始めます。歴史を探るには、まずその場にある情報(じょうほう)、つまり史料(しりょう)を集め、整理(せいり)してみる必要があります。
  たとえば、三日月神社の絵馬について、絵馬を奉納した人の名前、年月日、形、絵の内容を調べ、表にしてみました。
  こうして、分類してみるとまず絵の内容から分かることは、女性が描かれているものが多いということです。16枚ある絵馬のうち、絵や文字が分かるものは10枚。そのうち絵が描かれているものは7枚で、5枚に女性が描かれていました。しかも、女性はなぜかみんな青い着物を着ています。また女性2人が描かれたものはいずれも母と娘のようです。このことから、三日月神社は女性と何か関係がありそうだということが分かります。

いよいよなぞ解き
  こうして、史料を分類してみると情報が整理されますが、たとえば三日月神社の絵馬はなぜ女性の絵が多いかという新しいなぞが生まれたりします。
  このなぞを解くためには、二つのやり方があります。一つは地元の人、神社だったら神主さん、お寺だったらご住宅、さらに家の人などからそこに伝わっている話を聞いてみることです。そして、もう一つは図書館や博物館などで調べるやり方です。
  たとえば「三日月神社」については「月読命(つくよみのみこと)」という神をまつっていることが分かりました。そこでより詳しく調べるために図書館に行ってみました。何冊か調べた所、三日月神社という名前の神社は全国各地にそう多くはなさそうです。ただツクヨミノミコトをまつった神社は多く、各地に「月読神社」があることが分かりました。そこで、ツクヨミノミコトという神を調べてみました。
  ツクヨミノミコトは男性で、月の神。日本は明治時代までは月の満ち欠けで暦(こよみ)を決めていましたから、ツクヨミとは暦、つまりツキをヨムという意味だそうです。さらに、8世紀にまとめられた「日本書記」ではツクヨミが地上におり、保食神(ウケモチノカミ)を殺した所、その死体から牛馬、アワ、カイコ、ヒエ、イネ、ムギ、アズキなどが生えてきたという話がのっていました。この本では、死体から作物や動物が生まれた話は、日本だけでなく東南アジア、中南米、アフリカなど世界に見られ、雑木林(ぞうきばやし)を焼いて作物を作っていたころの焼畑(やきはた)農耕文化と関係がある、と書かれていました。
  なるほど、自然界では冬に草が枯れたり、山を焼いたりしてもそこからまた植物が生えてきます。つまりツクヨミノミコトは、植物など命を生む大地の不思議な力を神という形にして伝えたのかもしれません。三日月神社の絵馬に女性が多いのはじょうぶな子が産まれますようにというツクヨミノミコトヘの信仰と関係あるのではないかということです。ただ、なぜ青い服なのかは今の所分かりませんが…。
  これらのことは、あくまでも仮説(かせつ)で、歴史の不思議をとくひとつのかぎにすぎません。でも、自分なりのストーリーを描くことで歴史がより身近に感じられることはたしかです。図書館には司書、博物館には学芸員といって分からないことをやさしく指導してくれる専門家がいます。あなたもこうした人をどんどん利用して、身近な歴史の不思議を解いてみて下さい。

不思議いっぱいの三日月神社

 


◇環境庁が行っている身近な自然調査の今年のテーマは「ひっつきむし」。そのまま聞くと「虫」かと思われるけれど、正体は植物の種◇ちょっとわんばくな子供時代を過ごした人なら田んぼや野原を駆け回った時、ズボンやセーターにぴっしり草の種をつけた思い出があるだろう。この草の種がひっつき虫で、オナモミ、イノコヅチ、センダングサなどだ◇草の種が衣服に付くのは、植物が自分の種をなるべく遠くまで運んでもうらための知恵のようなもので、トゲやべたべたした液を出してくっつく仕組みになっている◇子供時代に悩まされたひっつきむしを今調べようという狙いは、野原や田のあぜなど、その生息場所がどの程度残されているか。また外来種がどの程度まで入っているかなどいくつかあるようだ。最近野原で駆け回っている子供をあまり見ないから、調査をダシにして子供を外へ連れ出すことができる◇早速環境庁へ連格し調査票を送ってもらった。いっしょに調査しようと呼び掛けたら、やはり子供時代に悩まされたという大人たちの懐かしい思い出話が聞けた。自然の話は大人を童心に戻す。

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